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お酒の話
 秋になると、娘さんたちがタライ桶の中に入ったぶどうを裸足で踏んでいるヨーロッパのニュース映像が映し出されます。この「ぶどうの踏みつぶし」は、酒造りの主役、酵母の大量培養「酒母作り」です。昔は「生もと」と言いましたが、この字が当用漢字から消えたために「酒母」と呼んでいます。 
 ぶどうジュースの中の糖分を食べつくさせ、アルコールをしっかり出すには、かなりの数の酵母が必要となります。ぶどう畑に生息している酵母は、よく熟したぶどう粒に多く着きます。この房を選んで足で踏むことにより、ぶどうジュースと酵母に空気が混ざり込みます。酵母は酸素があってもなくても生きられますが、酸素が供給されると増殖します。この酵母の増えたジュースが「酒母」で、残りの収穫されたぶどうジュースに入れて、ワインを造ります。
 ただ、「ぶどうの踏みつぶし=自家畑酵母培養」は、今はもうお祭りのときに行われるくらいで、私が確認した限りでは神田和泉屋と取引のあるワイン蔵シュネル家(ドイツ)だけです。一般的には、糖分の量を計算して、必要な量の純粋培養酵母を投入しています。
このワイン蔵は、純粋培養酵母の元となる優れた酵母を畑に持っている1軒なのでしょう。 日本酒造りでも、純粋培養酵母を使用しますが、現代でも「酒母作り」は省略されません。お米には、ぶどうのように酵母が増殖するエネルギー源となる糖分がないので、お米のでんぷんを麹の糖化酵素で糖分に変える作業が必須だからです。
 ところが、この「酒母作り」で問題となるのは、酵母の餌となる糖分を横取りする微生物(有害菌)がタンクの中に入ってくることです。つまり、この微生物の動きを抑制して、酵母の増殖を守ることが「酒母作り」の要となり、造りの現場では有害菌が繁殖しにくい低温の下で、「乳酸」を利用します。有害菌は乳酸に押さえ込まれますが、酵母は乳酸に何の影響も受けない特性があり、まさにうってつけの組み合わせなのです。この乳酸を酒母タンクの中で乳酸菌に作らせるのが「山廃酒母」、そして製薬会社から購入した乳酸を添加するのが「速醸酒母」。できあがった酒母は冷たいおかゆ状ですが、1tあたり1から2億匹もの酵母を含み、これを元にアルコール造りの仕込が行われます。
 かつては、麹、水、蒸し米をタライに入れ、大勢の人間が櫂ですり潰す「もと摺り(もとすり)」別名「山卸し」という作業を行う「生もと(きもと)」と呼ばれる酒母作りがありました。昔の人々の経験からなされていた作業ですが、明治時代に科学的な解明が行なわれた結果、一度にタンクに仕込んでしまう方法に変わりました。「山卸し(を)廃止(した)もと」、いわゆる「山廃酒母」です。でんぷんの糖化を行いながら、まず酒母タンク内のすべての微生物を殺菌して無菌状態を作り、やがてPPMの世界で環境が変化し、自然界の乳酸菌の出番となり、これが作る乳酸の助けを借りて酵母が増殖します。専門的になりますが、無菌状態は、井戸水に住む硝酸還元菌という微生物に亜硝酸を生成させて作ります。この酸も、乳酸が出てくると自然消滅します。酵母はおよそ25日もかけて大量培養され、この酒母を使ったお酒が「山廃仕込み」といわれるもので、味も酸も多いお酒となります。乳酸を添加する「速醸酒母」は完成まで15日、大吟醸酒を含め上品で軽い感じのお酒に仕上がります。さらに高温の環境で糖化することによって無菌状態をつくり、冷ましながら乳酸と酵母を添加する「高温糖化酒母」というものもあります。
 どのような酒母を育て使うかによって、個性豊かな山廃純米酒であったり、上品な大吟醸酒になったりと、できあがるお酒に大きな違いが生まれます。酒母は文字通り「お酒のお母さん」。山廃酒母は「肝っ玉かあさん」、速醸酒母は「上品で知的なお母さん」、高温糖化酒母は「娘っぽさを残すお母さん」という感じでしょうか。どの方法も手抜き失敗は許されません。「しっかりものの母」から産まれた子は寿命も長く、1年2年と貯蔵するとさらに味も豊なお酒へと成長します。