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お酒の話
日本酒とヴィンテージ
 「ヴィンテージワイン」とは言いますが、日本酒の世界に「ヴィンテージ」はあまりなじまないようです。今回はこれについてお話しましょう。
 ワイン造りは、「良いぶどうが収穫できれば90%終了したも同然」と言われます。ワインは農産物加工品なので、原料となるぶどうの出来不出来、言い換えればその年の天候に決定的な影響を受けます。そのため、ワインのラベルにはぶどう収穫年の表示が求められ、ぶどうの出来が良かった年のワインは高額で取引きされます。
 特にフランスでは、ボルドーやブルゴーニュというくくりで名刺大のヴィンテージチャートを発行して、○×年のボルドーはどうか、ブルゴーニュはどうか、とワイン産地ごとのワインの出来を年代ごとに著しています。しかし、その範囲を例えてみると、関東平野を1都6県にわけたような大雑把なもの。ひとつの県内でも、林がひとつあるだけでも畑への風の当たり方が違いますし、同じ南向きの斜面でも地形の起伏によって太陽の当たり方も違ってきます。目安程度ですが、ヴィンテージチャートの存在がワインが農産物加工品であることを如実に物語っています。
 一方、日本酒は、人間の工夫で作るいわば手工業品≠ナす。昔から日本酒の世界には「(米の)不作の年に腐造(失敗造り)なし」という格言があります。天候が悪く原料の米の出来が悪くても、人間の努力で例年並みのお酒を造り上げました。日本酒は新米で仕込むのが当たり前、いつの年の米で造られたかは問題にはなりません。つまり、ヴィンテージ(米収穫年)表記の必要はなかったのです。
 また、大吟醸酒などがなかった時代、造られるお酒は純米酒や本醸造酒だけでした。これらのお酒は、価格も味も「いつものお酒」でなければなりません。ぶどうの出来具合で価格も味も変わることが認められるワインとは違うところです。そのために、同じ年に仕込まれた同じ仕様の桶のお酒をブレンドするだけでなく、前年のお酒と今年のお酒を徐々にブレンドして、通年同じ味を保ってきました。収穫年度表示はどだい無理な話です。
 日本酒は、「1年以内に消費しなければ駄目になるお酒」と誤解されている方も多いのですが、通常出来の良いお酒、特に酸の出る純米酒などは1年〜数年の熟成を必要とします。冬季の仕込みに使われた桶は、夏季には熟成のための貯蔵桶として使われます。この桶、初冬には空にしないと仕込桶として使えないので、貯蔵中のお酒を初秋には売り出したことから、誤解が生じたのかもしれません。最近では小さな酒蔵さんでも大型冷蔵庫を設置し始め、すでに石川の菊姫さん、静岡の開運さん、栃木の四季桜さん、山形の上喜元さんなどではフォークリフトが出入りできる巨大な低温貯蔵庫を設置、ワインと同様に瓶詰して貯蔵、次の仕込みを心配せずに十分な熟成期間を与えて売り出しています。この冬に売り出された秋田の春霞大吟醸酒などは、平成18年の2月から貯蔵されていたものです。
 ところで、日本酒のラベルにも年月の記載が見られます。これは「製造年月」です。平成20年8月などという表示もありますが、8月に酒を造っているわけではありません。日本酒は、もろみが搾られて清酒と酒粕に分けられた時点でアルコール発酵は終了となっても、酒造りが終了したわけではなく、熟成終了までが酒造りなので、「製造年月」は売り出しの年月です。
 さて最後になりましたが、日本酒にも、実は、ヴィンテージに相当するものがあります。7月1日から翌年6月30日までを1年とする新米の出荷を起点とした「酒造年度」です。今は平成21年ですが、今冬に誕生したお酒はすべて平成20酒造年度産となります。
 最近では、一部の高級酒が単独タンクのまま売り出されることも多くなりました。お酒の設計が見事に成功した時に、そのお酒は「いつものお酒」とは別に、酒造年度を表記した「ヴィンテージ日本酒」として、「いつもの」ではない価格で売り出される時代がそこまできているのかもしれません。