調味料うんちく

 神田和泉屋の所在地はオフィス街なので、食べもの屋さんや飲み屋さんがまわりにたくさんあります。そのために「煮酒に使うんだけど・・・・安い奴でいいや」などといって、ご近所の板前さんが、間に合わせの「日本酒」を買いにみえます。目的の値段のものがなくて、手ぶらで帰られる人がほとんどです。

だいぶ前の頃ですが、「山廃仕込み○△」などという、今は本当に大手になってしまった酒造メーカーさんがお皿つきで大々的な宣伝を開始した頃のことです。神田和泉屋では、まだ先代社長(現社長の父)のお得意先の飲食店が、まだまだビルの谷間の木造の家の中で廃業もせず頑張っていた時代でしたが、この○△が納入できませんでした。理由は「料理が美味しくできない!」ということでしたが、実はこの頃の煮酒は「板前さんたちの仕事上がりの酒」として飲まれていたのです。

いくらのお酒を仕入れるかは経営者の決めることでしたが、調理場に関してはお酒(煮酒)や味醂などすべて板場の親方の裁量だったのです。もちろん料理に使ってどちらが良いかという判断はあったと思いますが、自分たちの口に直に入るものともなれば、選ぶ基準も厳しく?なっていたのに違いありません。酒好きの仲居(部屋係の女中)さんが夜中に、ちょっと一杯という「盗み酒」とは違い、板場の煮酒は板前さんたちのおおぴらな?お酒でした。

おかみさん(経営者)も板場にはあまり口を出さず、とにかく美味しいものを出してくれれば・・・という感じでした。

今の板前さんは、経営者に原価を厳しくチェックされるせいか? (酒の味が分からないのか?)なるべく安いものを仕入れることに情熱を傾けているようです。もう昔のように「あの店(料理屋)に納まる煮酒」という、味のプロのチェックを通った酒の世界はなくなってしまったのは残念です。

余談ながら大吟醸酒などは「煮酒」には向いていません。酒蒸しなどにはとても結果が良いようですが、いわゆる煮酒には向いていません。精白が高度なためなのかもしれません。醸造用糖類がいっぱい入ったお酒も、甘みが料理に移って感心しません。純米酒か本醸造酒あたりが一番のようです。

煮酒の善し悪しは、料理に決定的な差をつけます。以前「純国産」のワインで料理を作ってみる勉強会を開きましたが、使ったものよりも「水だけ」のほうが良かった! という結論が出たことすらありました。肉や魚の良いものを目の色を変えてさがしても、煮酒が悪くては・・・・・という落とし穴があるのです。

煮酒ですら(といったら煮酒に失礼か?)こうなのです。調味料を名乗るものの影響は計り知れません。一度、神田和泉屋がおすすめする「ごく当たり前の調味料」をお試しください。