不老泉(ふろうせん)

 地神田和泉屋は三十年以上昔の若いころ巡り合った酒蔵さんとだけ世界を一緒にしてきましたが、不老泉さんは酒屋の閉店(縮小)を決めてからのお付き合いです。神田和泉屋を仕舞うに当たり、遠い先祖にゆかりのある近江の酒を扱いたいと思い、探しましたが、大阪国税局の鑑定官室長の先生方もすでに鬼籍に入られ、相談もできないでいましたが、たまたま岡山倉敷の「歓びの泉」千葉御宿の「岩の井」で杜氏をしていた横坂杜氏がこの蔵にいることが分かり、お付き合いが始まりました。
 店主の横田の先祖は、戦国時代この近江の武将で、武田家にスカウトされて一族で甲斐の国に移転、もらった領地が横田川泉であったことから、佐々木から横田に改名。武田家滅亡の後は徳川家に仕え旗本となり、領地として天領秩父の一部をいただき、分家であった先祖がここを治めていました。今は河の流れも変わりかつての屋敷の敷地は消滅していますが、父の縁者は秩父で健在です。
 さてこの酒蔵ですが、とても個性的な製法を使っています。まず酵母菌はいわゆる「家付き酵母」を使用。当然のことながら、酒母は山廃というか生もとです。幸い蔵は琵琶湖に面していると言っても良いくらい湖の近くです。この造りに不可欠な硝酸還元菌がたくさん湖水に含まれていて、この菌によって作られる亜硝酸が酒造りのスタート時点での無菌状態を作りだしてくれます。そして最後の段階での「搾り」も空気圧のヤブタ式でないどころか、油圧をも使用しない釣瓶井戸の仕組みのような「天秤搾り」で圧を加えず、時間をかけて搾っています。お付き合いの始まったころは、すべて生のままでしたが、やはり気になる「生ひね」は避けようもありませんでした。お願いをして「一回火入れ」を納得いただき、横坂杜氏自作米「総の舞」と「高嶺錦」で仕込まれる純米吟醸酒にこれを行い、品質の安定した状態で出荷いただいています。

余談となりますが、横坂杜氏が以前働いていた前述の「岩の井」さんとは故岩瀬会長と親しいお付き合いがあり、現社長にもお酒の学校「神田和泉屋学園」の酒造り見学の修学旅行や「酒造体験」でたいへんお世話になりましたが、兄弟蔵お隣の町大原の「木戸泉」さん同様、時の流れで、考えの違いから、不本意ながら今は疎遠となっています。悲しいことです。

 上原酒造(株)  滋賀県 高島市