外房、御宿は海女の町、海草の大葉やアワビの獲れる町です。この浜に[北の旦那]と海女たちに呼ばれてきたアマチュアの老写真家がいます。箱型カメラ[ベス単]と海女に魅せられ、海女を撮り続けて60年。総理大臣賞を始め外国のコンテストでも入賞、この御老人が情熱を傾けてきたほんとうの仕事、それが[岩の井]の酒造りです。「岩の井の酒はご当主が芸術家だからやはり酒も繊細になるなあ」とは亡き古川先生のお言葉です。御宿は千葉県の外房、冬でも雪は降ることはあっても積もることはない、2月の中旬には菜の花が咲く温暖な土地です。それでも冬の造りの時期には凍てつくような寒さが靴底から這い上がります。造りの期間は短く、2月の初旬には終わりとなります。 お隣の町大原の[木戸泉]とは兄弟蔵で、89年10月に94歳で亡くなられた元大蔵省技官古川董(ただす)先生のご指導をともに受け、木戸泉は古酒で、岩の井は吟醸で名声をはせています。昭和の初め頃、岩の井に追いつけ追い越せと大吟醸造りの目標とされた岩の井の世界を創り上げた岩瀬偵之社長も2001年2月19日に逝去されました。数年前より現場は新社長の息子さん能和氏の手で地道な研究が熱心に進められています。平成11年秋に杜氏の菊池さんが現代の名工(労働大臣賞)を受賞しました。
蔵はご自宅と同じ敷地にあります。茅葺きのふるい平屋建てで、昔庄屋さんだった名残で代官所の役人を迎え入れる式台(玄関)もそのまま残っています。天井の梁には江戸時代に御宿の海で難破したメキシコの船の帆柱が使われています。この母屋の右側に造りの蔵があります。大きな屋根瓦が印象的です。その右端に甑(こしき=蒸し器)そして麹室が作られています。蔵の正面の左側には分析室、蔵人たちの宿泊室。内部にはいると貯蔵タンクがたくさん並んでいます。右側に搾り機がセットされています。この槽(ふね)と呼ばれる搾り機はちょっ変わっていて岩の井さんの特注品です。酒袋を使わず大きな風呂敷のような布を使っています。この搾り機の奥に酵母菌を大量培養する酒母室と発酵のタンクがあります。
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